5. クラシフィケーション;Classification=分類
分類するということ=科学する手順
いろいろなものごとを見ていくと共通していることがあまりにも多いので驚いてしまう。
例えば、子供のサッカーの練習を見ていると、初めから運動神経の良い子とあまり良くない子がいて、それぞれのポジション=役割が自然と出来上がっている。
運動神経の良い子は、取敢えず上手いのだが、サッカーに対して必ずしも一生懸命とは限らない。
一方、あまり運動神経の良くない子は、見ていても歯がゆいような動きをしているのだが、それでは、サッカーに対して一生懸命ではないかというと必ずしもそうではない。
それならば、それなりに上手く成れるように教えてあげれば良いものなのだが、今度は教える方がそうはいかない。20人から30人もいる子供たちを個別に指導することがコーチの数、グランドのスペースなどの制約からなかなかできない。したがって、上手い子も上手くない子もさまざまな課題を抱えながら全く同じ練習メニューをこなすことになる。
長い間、人に教えることを仕事にしていると、このようなムチャクチャなことがまかり通っていることに対して疑問を持たざるを得ない。
上手い子の中にも、上手くない子の中にも、いろいろなタイプがあり、蹴るのが上手い子・蹴り方でつまずいている子、走るのが早い子・走り方でつまずいている子、動きの敏捷な子・上手く動きがつかめずに後手後手にまわってしまう子、パス出しが上手い子・パスの何たるかが全く分かっていない子....などそれぞれ特徴がある。
上手い子、上手くない子、どちらにも共通して言えることは、必ずどこかにいまひとつ上手くいっていないポイントがあり、それさえ乗り越えれば、完璧とは程遠くても現状よりは飛躍的に前へ進めるということである。自信を持った時の子供の進歩には目を見張るものがある。
その為には、現状を良く観察し、観察に基いていくつかのグループに分けて練習メニューを考える必要がある。
子供のことであるから多くの技術・能力が不足していることは言うまでもない。しかし、取敢えず、それさえ習得すれば自分の持つ他の能力・技術を飛躍的に活かせるようになるポイントというものは、ある程度限られてくる。
走るのが早くなることでキック力が活きてくる子供もいるし、逆にキック力を身につけることで足の速さが活きてくる子供もいる。膝の使い方が硬い為に動きがぎこちない子は、膝の使い方を時間をかけて直してやれば、見違えるような動きに変わるだろう。
動き方が分からない為にボールに絡むことができない子は、動き方を習得することで、足の速さやキック力が活きてくる。 このようにそれぞれの子供の状況が違うのであるから、それぞれ課題が違う。当然、練習も似たような課題を持つ子供たちごとにメニューを変えてやる方が良いのに決まっている。
これらのことを整理してみると、まずは、事実観察である。それぞれの子供の特徴を良く観察し、何を加えていったらその子の特徴が活かせるようになるかを見極めて、似たような課題を持つ子供をグルーピングしてやる。そして、課題ごとにメニューを設定する。
どこかで見たような手順である。リテイル・エンジニアリングの連載の一番初めに書いた「科学」ということの説明と全く同じである。
事実を正しく知り、グルーピングとモデル化により、そこにある仕組や法則性を見極めていく。
さらに仕組や法則性を「仮説」として、それを実験や観察により「検証」していく。これが科学の手順である。自然科学も社会科学も科学する手順は同じである。
ここでは、このような科学の手順の中でも私が特に重要と考えている「分類=Classification;クラシフィケーション」について考えていく。
クラシフィケーション;Classification=分類
「分類」することは、科学することの一番の基本である、と同時にマネジメントの基本でもある。そしてさまざまなものごとの本質を正しく見極める上で最も重要なものが「分類」であると言っても過言ではないだろう。
子供のサッカーの例でも挙げたように、それぞれの状況の違い=それぞれの課題の違いに対して、似たような課題を持つグループに分けて対応していくことは、マネジメントの単位を形成していく上でとても重要になる。このまとまり単位が適正なものでなければ、どんなに時間をかけて一生懸命やっても適切に対応することは難しい。
蹴り方を習得しなければならない子供、動き方を習得しなければならない子供に走り方だけを一生懸命練習させても優先順位が異なり、あまり意味はない。課題によるグルーピング=マネジメント単位の形成は全ての基本となる。
「分類」に関する研究は、生物学の一部として行なわれてはいるが、残念ながら「種の体系付け」が主目的であり、ここで言うような科学的方法、マネジメントの基礎を形成するという位置づけで「分類」というものが研究されたことはかつて無かった、と言っても良いだろう。
私は、クラシフィケーション;Classification=分類というものが全てにおける基本だと考えている。
我々は、知らず知らずの内に物事を「分類」しながら認識している。
例えば、「今度の日曜日にどこかへ遊びに行こう,...」と言う場合でも「平日」と「日曜日」を分けて考えているわけであるし、「仕事」と「プライベート」あるいは「休日」というように分けて認識しているからこのような表現がなされるのである。そもそも、言語自体が識別=分類の為のものであり、さまざまな「もの」「状況」などを識別し、思考し、伝える為の手段として発達してきている。
認識、識別、思考、あらゆる精神過程の中で「分類」という行為がなされているわけであるが、その割には、「分類」という行為の規則性、分類方法などについての研究は行われていない。研究方法自体が分からない、と言った方が当たっているかもしれない。
物事を構成する要素が増え、それらの関連がより複雑になることで物事を単純に認識することが難しくなってきている。このような状況の変化により、分類することの重要性が増してきていることは事実である。
特に、コンピュータの占めるウェイトが高まってきた現在では、さまざまなデータをどのような単位に集計してアウト・プットするのか、どのような単位にまとめて管理するのか、ということがとても重要になっている。このことが分かっていないとイン・プットの段階でデータに持たせる情報の設定ができないし、ソートする為のプログラムも組みようがなくなってしまう。 実態を忠実に表わさないようなデータは、どんなに細かな精度でデータをとらえようと意味が無い。
例えば、魚と野菜を合わせて消費重量をグラム単位まで算出してみてもデータの精度以前に、そのデータの意味が問われてしまう。
魚は魚、野菜は野菜というまとまり単位で集計して初めて意味があるデータとなるわけであるから、何でもデータを算出すれば良いと言うことにはならない。データの精度以前の問題である。
現状でPOSデータが上手く使いこなせないのもグルーピングの概念が曖昧な為、データの多さだけに振り回されて混乱しているわけである。
マネジメント単位を探す
【図表-1】
図表-1は、「もの」の特性によりまとめられたマネジメント単位,マネジメント単位に適したマネジメント方式,マネジメント単位ごとに集計されたデータ,マネジメント単位ごとに対応する業務/組識の関係を表わしたものである。
「もの」には、さまざまな特性があり、目的に応じてさまざまな特性の中から有効と考えられる特性を選定し、それによりまとめられたマネジメント単位を構成していく。
図表-2はあるスーパーマーケットの青果部門の運用状況を表わしたものである。
この部門では野菜/果実というように商品別に担当を決めており、加工する必要の有無に関係なく、野菜/果実という商品の違いを優先して部門の職場編成を行っていた。
しかし、職場の作業状況・商品の加工工程などを良く観察してみて分かったことは、野菜も果実も基本的に同じ工程によって処理されており、入荷から品出しまでの工程を野菜/果実と分けて運用する意味がほとんど無いということである。むしろ、一連の流れの中で重要なことは、入荷から品出しまでの工程の中で加工が必要か、不要かということであり、加工の要・不要によるグルーピングで運用した方が適している。
メーカーでは、グループ・テクノロジー( Group Technology )という考え方・手法があり、加工工程の類似性、加工方法の類似性、素材の種類などによるグループ加工を行って、生産性の向上を実現している。この考え方に基いて見ていけば、青果部門も野菜/果実という分け方をするよりも加工の要・不要で分けてとらえた方が向いているということになる。
しかし、これはあくまでも加工,職場編成,部門運用という目的においてそうなのであって、目的が、売場作りやPOSデータを用いた販売状況の測定/分析/改善ということになると全く異なってくる。目的に応じて適した分類方法は異なってくるのである。
このように、さまざまな「もの」について、それらが持つ「特性」を良く研究し、目的に応じて最適な グルーピング=マネジメント単位の設定をしていくことがとても重要になるのである。
【図表-2】
「もの」の持つ特性
それでは、グルーピングに必要となる「特性」にはどのようなものがあるのだろうか。
商品というものに限定して考えると「物理的・化学的・生物学的・生理的」な特性,「使用上」の特性,「販売上」の特性,「生産上」の特性,「調達・物流上」の特性などが考えられる。
・「物理的・化学的・生物学的・生理的」な特性には、素材、組成成分、構造、サイズ、容量、デザイン、色・柄などがある。具体的で分かりやすい為一般的な商品分類として用いられることが多い。
・「使用上」の特性には、用途、対象、使用方法、使用頻度、使いやすさ、メンテナンスのしやすさなどがある。近年、商品分類上の要素としてその重要性が増しているが抽象的で分かり難い面があり、研究の必要がある。
・「販売上」の特性には、季節性、販売の継続性、荒利率、販売量などがある。
・販売量だけに注目して分類しているのがPOSデータ分析の主流になっているABC分析である。
・「生産上」の特性には、機械生産/手作り、工程の違い、生産ロット、生産の難易、生産の継続性などがある。
・「調達・物流上」の特性には、荷姿、サイズ、重量、物流ロット、保管条件などがある。
同じ商品であっても流通の各段階において、商品のもつ意味が変わるし、重点的に管理する項目が異なってくる。したがって、流通の各段階で適した対応を取ろうとすれば自ずとグルーピングの切り口として用いる「ものの特性」は変わり、異なったグルーピング=マネジメント単位を構成することになる。
これが業務のように目に見えないものであっても同じである。
業務における「特性」として考えられることは、「業務目的の類似性」「業務処理方法の類似性」「処理方法の規則性」「業務処理の難易度」「人的制約の有無」「発生頻度・発生の規則性」「時間的制約の有無」「前後関係の有無」などである。
・「業務目的の類似性」では、さまざまな形態の業務を目的的にグルーピングすることで目的=手段の関係や手段間の関連などを整理していくことができる。
・「業務処理方法の類似性」では、メーカーにおけるグループ・テクノロジーと同じで類似工程をまとめていくことで生産性のアップを狙うものである。
・「処理方法の規則性」では、処理方法がその都度変わるような不規則なものをまとめて標準化やパターン化を図ることで対応しやすくする。
・「業務処理の難易度」は、業務を行う人の職位やキャリア、知識・技術・ノウハウなどと密接に関係してくるものである。また、一方では、業務処理方法の善し悪しとも関係してくる。したがって、業務処理の難易度によるグルーピングを更に深めていくと上記のような二面性があり、相対的な比較の中で検討する必要がある。
・「人的制約の有無」は業務処理の難易度と密接に関係しており、ある意味では、裏表の関係にあると言っても良い。ただし、一般的な業務の中では、人的制約までを厳密に議論するような業務の種類は少ない。
・「発生頻度・発生の規則性」では、業務が月、週、曜日、時間帯などにより規則的に一定頻度で発生するものなのか、その都度発生するものなのかをグルーピングすることで整理し、対応の仕方をパターン化する時に有効である。
・「時間的制約の有無」「前後関係の有無」では、業務をいつやるべきなのか、どのような前後関係の中で組立てるべきなのか、というようにスケジューリング、負荷計画などに必要となるものである。
このように、目的に応じて必要となる特性はさまざまであり、また、残念なことにケース・バイ・ケースで検証していかざるを得ない。
しかし、基本的には、5W3H( What,Why,When,Where,Who,How to,How much・many・long,How well )などをヒントにして整理していくことで分かりやすくパターン化を図ることが可能であり、一つ、一つ整理してみるとある程度限られた範囲の中で検討すれば良いことが分かる。
「分類する」というと何かものを分けていくというイメージが強いが広辞苑によると
〓〔論〕(classification) 区分を徹底的に行い、事物またはその認識を整頓し、体系づけること
というようにある。
目的が体系づけることであるから、何でも細かく分けていけば良いことにはならない。むしろ、目的に応じて類似するものをまとめていくと考えた方が分かりやすいだろう。
「分類」というと何かとても単純でつまらないもののように思えるかもしれないが、実は、とても奥が深く、物事の本質に迫る為の認識の入口であると言っても良いだろう。
(1997年9月)※2002年7月改訂