6.消費者の「買い方」(その3) カテゴリー内の競争関係を探る 研究員 寺田英治 氏
概要
これは、消費者があるカテゴリー内の商品を買う際の意思決定過程を探ろうという試みである。
このアプローチに対して2種類の手法を紹介する。一つは、消費者の意思決定過程における選択基準を明確にするもの。もう一つは、商品を競合の激しさによってグループ分けし、その後に各グループを性格付けするというものである。共に、パネル購買履歴データの活用という視点から紹介する。
なお、消費者の「買い方」についての理解を深めるに当たっては、購入結果のデータだけでは不充分である。ただし、実際に売場の操作を考える上では、消費者行動についての正確な理解は必ずしも必要では無い。アンケート調査や実験などは無論有益ではあるが、その前に、購買の結果という確実なデータから示唆を得ることが重要であると考える。
選択基準を明確にする手法
ある消費者があるカテゴリーの商品選択をする際に、例えば、まずサイズが大きい商品に絞り込み、続いてA社の商品に絞り込むというプロセスが考えられる。この場合、その消費者にとって、最も重視する属性はサイズであり、次に重視する属性はメーカーということになる(図表 1参照)。このように、意識しているか否かに関わらず、商品選択基準の階層的な構造を推定しようとするのが、一つ目の手法である。購買履歴データにおいて、購入商品の属性の偏りから分析しようとするものである。SPSS社「Clementine」のC5.0アルゴリズムなどで実現可能である(※1)。
図表1
この手法では、一人一人の消費者に対して一つずつの構造が算出される。消費者はそれぞれ異質であるため、100名の顧客がいれば100通りの意思決定構造が算出されるのである。ここから実務に落とし込むためには、消費者の集計又はセグメンテーションが必要となる。例えば、「最も重視している属性」別に顧客を分類したのが図表 2である。そして、それぞれのセグメントサイズに合わせた棚割りや品揃えを実現することによって、その店舗の消費者層にあった売場を構成できると考えられるのである。この結果からは、購入商品が「新商品に偏っている、又は、既存商品に偏っている」消費者が全体の5割を占めていることが読み取れる。この場合、売場の括り方として「新商品か否か」という基準を考慮すべきことを示唆している。
図表2
プロダクト・マップ作成 競争市場構造分析
カテゴリー内の商品は、全てが一様に競争しているわけではなく、ある商品グループの中で、より激しい競争がなされていると考えられる(※2)。そういった互いに激しく競合しているグループがカテゴリー内及びカテゴリー横断的に複数存在しているのが通常である。その競合の構造を探るのが、競争市場構造分析である。
パネル購買履歴データ活用の視点からは期間併買の分析が有力である。ブランドスイッチの情報からのマッピングもよくなされているが、スーバーマーケット業態では、一度に同一カテゴリーの商品を複数購入する場合があり、その行動の処理について議論の余地があるため、期間併買データの方が扱いやすくなっている。因子分析や多次元尺度構成法といったアルゴリズムが適用されることになる(※3)。
図表3の市場は、4つの競合グループと3つの差別化された商品で構成されていることがわかる。但し、軸の意味や競合グループの共通点は明確にされず、分析者が各商品の属性情報を加味して解釈することになる。
図表3
まとめ
これら二つの手法を組み合わせることによって、店舗にとっては、品揃え計画や棚割り作成、商品改廃に対する示唆が、またメーカーにとっては、商品のポジショニングの理解や、競合商品の明確化、新市場の発見などといった示唆が期待できる。
参考文献
※1 事前のデータ整形については、金子武久 (1994), 「消費者の属性選択構造と製品力分析」, 『日経広告研究所報』, 156号 (C5.0の前身であるCLSプロシジャーについての論文)を参考にされたい。買った商品だけでなく、買わなかった商品の情報も必要である。
※2 井上哲浩 (1996), 「競争市場構造分析技法の現状と課題」, 『マーケティングジャーナル』, vol.60
※3 プロダクトマップ作成手法については、片平秀貴 (1987), 『マーケティング・サイエンス』, 東京大学出版会 や 朝野煕彦 (1996), 『入門多変量解析の実際』, 講談社 に詳しい。なお、パネル購買履歴データを用いた解析には、事前に商品×商品の期間併買行列を作成する必要がある。