5.消費者の「買い方」(その2) カテゴリー間の関係を知る<ショッピングバスケット分析> 研究員 寺田英治 氏
概要
ここ数年、来店頻度は低下していないが、客単価の低下が問題となっている。客単価向上の方法として、同時購買(関連購買)を高めることで客単価を向上させる方法が期待されている。
そのためには、効果的なカテゴリーの組み合わせを知ることが必要である。同時に買われ易いカテゴリーを隣接して配置したり、クロス・セリングを実施したりすることによって、初めて関連購買の促進や買い忘れの防止といった効果が期待できるのである。
図表1(※1)
消費者行動論の視点から
ショッピングバスケット分析は、購入商品集合(レシートデータ)に基づいて、購買意図及びその源泉となる店舗外状況要因についての知識を得ようとするものである(図表 1参照)。 スーパーマーケット業態では、買物問題(買物によって解決すべき問題)は、例えば「夕食用食材の調達」とかなり曖昧である。購入する商品を直接に決定づける「夕食のメニュー」は店内で決定される場合が多い。しかし、店内にて刺激を受け意思決定をするとしても、完全に無作為に購入するわけではなく、事前の買物目的に沿った形で、また家庭内状況(家族人数など)などに制約を受ける形で意思決定される。この部分を読み取ろうとするのが、ショッピングバスケット分析である。
バーチャルアイテムの必要性
但し、入力データが購入商品集合だけでは不充分である。購買意思決定に影響を与える諸要因も考慮しなければならない。それには、バーチャルアイテムが有効である(※2)。バーチャルアイテムとは、店舗名、地域、購買日時、各種販促、店舗周辺でのイベントの有無などを表す情報である。これをレシートデータの商品の情報と合わせて分析することよって、購買意図をより鮮明にすることができる。
ショッピングバスケット分析ではよく例に挙げられる「ビールと紙おむつ」の組み合わせでは、購買日が「木曜日」であるということがポイントとなっている。すなわち、「週末に向けての家庭内在庫補充」という買物問題に対する解決がその組み合わせとなって表われているのである。 また、逆にある2商品が同時に特売の目玉として扱われていれば、その商品自体に関連が無くとも、当該時期における同時購買率は高くなるであろう。「特売の有無」というバーチャルアイテムなしでは、誤解を招いてしまいかねない。
あらゆる分析において必要なことであるが、現場を良く知る人が分析するか、あるいは分析者と現場とのコミュニケーションを密にしなければ、有意義な分析はできないのである。
まとめ
ショッピングバスケット分析によって得られた「同時購買されやすいカテゴリーの組み合わせ」は全て有効であるとは限らない。大抵は「パスタとパスタソース」といった至極当然の組み合わせである。しかし、有益なルールが発見され、妥当な解釈がなされた場合(解釈の裏付けは、各種調査に頼らなければならないが)、直ちに施策に繋げることができる。
消費者視点での売場の形成を実現するに当たっては、ショッピングバスケット分析は非常に実用的であると言える。
参考文献
※1 青木幸弘 (1983), 「消費者の店舗内購買行動に関する一考察」, 『マーケティングジャーナル』, 第3巻3号
※2 Michael J. A. Berry and Gordon Linoff (1997) Data Mining Techniques: For Marketing, Sales, and Customer Support, John Wiley & Sons, Inc.(邦訳:江原淳, 佐藤栄作訳 (1999) 『データマイニング手法』, 海文堂)
次回は、「消費者の『買い方』(その3)」です。